ここまで工事費をかけたのだから、もう少し直して貸したい。思い入れのある空き家ほど、そう感じることがあります。ただ、過去に支払った額だけを理由に追加投資すると、今後の条件を見落とすかもしれません。

最初の判断を責める必要はありません。購入後に分かった事実もあるはずです。今から選べる方法と、それぞれで変わる入出金を一度並べてみましょう。

戻せない支出と、今ある価値を分ける

既に発生し、今の選択では取り消せない費用を埋没費用と呼びます。厚生労働省が公開する経営研修資料でも、過去の支出に引きずられず将来を判断する考え方が説明されています。

一方、今持っている建物や設備には売却・利用できる価値がある場合があります。過去の工事費を戻せないことと、物件を無価値としてよいことは違います。現在売った場合の手取額や、他の使い方から得られるものも比較へ入れます。

今日以降の二案を同じ終点で比べる

説明用に、これまでの支出300万円、現在売却すれば手取160万円と仮定します。借入と税金はなく、売却費用は各手取額に含む単純例です。A案は今売る、B案は30万円を追加投入し、一年運営してから売るとします。

今日からの入出金A案・今売るB案・一年運営後に売る
追加工事なし−30万円
一年の家賃から運営支出を引いた額なし+36万円
売却手取+160万円+160万円と仮定
今日以降の単純合計160万円166万円

差は6万円です。ただし、今受け取る現金と一年後の現金の時間価値、運営の手間、将来価格の不確実性を調整していません。B案の売却手取が130万円になれば合計は136万円で、A案より24万円少なくなります。将来価格は予測ではありません。

過去の損益表は消さず、判断表と役割を分ける

上の166万円は、これまでの投資全体で166万円儲かるという意味ではありません。過去300万円の支出を含めた全体成績は別に集計します。B案へ過去費用をもう一度足して、それを取り戻すための追加工事と位置付けないことが大切です。

実際には、過去の取得費や改修が売却時の税金、減価償却、保証や返金などに関係する場合があります。これらが将来の入出金を変えるなら、その差は判断表へ反映します。埋没費用という言葉で帳簿や証拠資料を捨てないでください。

続ける条件を金額と確認事項にする

追加工事の範囲、貸せる条件、家賃の根拠、完成までの期間、売却の見込みを確認します。「あと少しで済む」と繰り返しているなら、未確定項目ごとの次の回答日と、超えられない予算を置きます。安全や必要な手続きを削って収支を合わせる方法は採りません。

残債がある場合は、各売却時点の返済額と抵当権抹消等の条件も確認します。売却を選べば常に支出が止まるわけではないため、引渡しまでの費用も含めて比較します。

まず「今まで払った額」と「今日から変わる入出金」を別の表にしてください。そこへ今売る価値を加えると、惜しいという気持ちを受け止めながらも、次の一手を条件で判断できます。